パリ同時多発テロ、ベルギー連続テロと世界を揺るがす事件が発生し、ヨーロッパ全土では、難民の流入問題など、人種的な問題で揺れている。停滞気味の経済状況での、2016年4月開催のミラノ・サローネを見てきた。
パリ同時多発テロ、ベルギー連続テロ、2016年のミラノ・サローネはどう変化したのか?
ヨーロッパを取り巻く環境が、2015年からの停滞気味の経済状況であり、決してお祭り騒ぎを歓迎できる状況では無い2016年ではあるが、世界の最大の展示会として、最新のデザインの提案が行われる「ミラノ・サローネ」の今年はどうであったのか? 私なりの視点で、確認していく。
ミラノ・サローネの全体を俯瞰して見ると!
モダンデザインという、ジャンルが有るのならば、そのカテゴリーに入ってしまうブランドが数多く、保守的な印象をまず受けた。ヨーロッパ全体の停滞感を感じた。
ナチュラルな素材にダークなカラーにポイント的にゴールドや真鍮、ディスプレーには本とグリーン、そんなメーカーが今年のトレンドなのか?
軽めにデザインされた収納家具に、ダークな雰囲気のテーブルと椅子。照明器具もトレンド感あるデザイン。このスタイル、マテリアル使いが、数多くのメーカーで見られた。普通。
ベルギーを拠点とする「ETHNICRAFT」。初めて見たが、絶妙なクラフト感とセンスの良さが伝わった、良い展示だった。
カッシーナは、展示の方法が良かった。計算された照明計画。グリーン。摸擬のブロック。
カルテルは、素晴らしかった。デザイナーにスポットを当てながら、色々な角度で新しい物を発表してた。昔は大したことない印象だったのに、年々成長を続けてるメーカーの一つだと思う。アクリル素材の可能性をいつも色々な形でインテリアとして提案してくる。楽しみなメーカー。
イタリアのガラスメーカーの展示。深澤直人のテーブル。どのような技術で制作されているのか?職人による吹きガラス的なテーブルの足。面白い!接着も凄い技術だと思うが、「実際に使うと鏡面に写り込んでパンツが見える」のも計算されているのか?
ミラノ・サローネ会場を見た全体感の印象は、ハイブランドを除いての多くの家具メーカーは、モダンデザインな雰囲気を感じされる「似たり寄ったり」のデザインが多かったと感じた。
中小家具メーカーの技術やデザイン構成力が上がってきてるので、より似たり寄ったりな見え方になるのかもしれない。デザインのトレンド、今の時代感がそうさせてるのかもしれないが、保守的で、型にハマった家具メーカーが目立った。
一方では、新しい試みに挑戦的なメーカーも、ハイエンドのブランドを中心に有った。特にどのような技術で制作したのか?解らない物が、私の目に沢山止まった。
そこに注目して、ミラノ・サローネを考える。
「伝統としてのクラフト」と、「最新のハイテク機器によるクラフト感覚」
近年の工芸的な技術としてのクラフト(圧倒的な完成度とか、複雑な手仕事など)を取り入れるデザインが、トレンド(モダン成金趣味といえば良いのか?)でもあるが、これは伝統職人の技術の上で出来たものなのか?最新のハイテク機器を駆使して作ったものなのか?
解らない、境界線に有るようなデザインが、今年のミラノ・サローネでは私の興味を引いた。
以下はその特徴的な考え方を活かした例として説明していく。
THE RESTAURANT by TOM DIXON
「THE RESTAURANT」をテーマに大きい歴史的会場でタイルメーカーをスポンサーに、トム・ディクソンの展示は行われていた。食がテーマで、実際にフードを食べれる。歴史的会場で、キッチンを作りこみ、良い展示だった。
この照明器具「MELT」が特におもしろかった!
ブロー成形のポリカーボネートをつかった照明器具らしいが、機械によるブロー成形とは思えない手作り感有る形状。一つ一つ違う表情にも見える複雑な光を放ち、ガラスのようなクラフト感覚を持つ照明器具だった。
照明器具の向きが変わるだけで形状が違う物に見える。
上記の2つの照明器具は同じ形である。工業製品であるが、クラフト感有る素晴らしいデザイン製品。
ALAMAK! DESIGN IN ASIA
あれほど、毎年盛大に日本のデザイナーズウィーク館が毎年行われていたのに、今年はテロで逃げ出してしまったのか?全く情けない話である。今年はその日本館跡地に、台湾メーカー「ASUS」が展示をしてたのも、時代の象徴かも知れないと思う。内容は特筆すべきところは無かったが!
その代わりではないが、今年は現代美術館で行われていた、「alamak!」アジアの展示が面白かった。
「あらまー」日本語なの?おばさん言葉! 驚きの表現を使ったアジアの展示です。
長坂常のテーブル
このテーブルも、クラフト的思考を活かした、デジタル感覚のテーブル。
台湾のnbt.STUDIOの照明器具
これも、折り紙的発想の考え方を持った、色々な考え方が出来る照明器具。
落ちてる石をモチーフにテキスタイルに落とし込んだ作品
これも、偶然の形を利用しながら、デジタルデーターにして、最新のプリンター技術で作ったテキスタイル群の展示です。
この棚もベーシックな形状を利用しながら、アルミの表面を手仕事の感覚を残した、クラフト感を感じさせられる作品だ。
木の蔓を使った、面白い形状のカゴ?色々なこだわった作品が多い中に、こんなプリミティブな作品も面白い。
SUBTLE-TAKEO PAPER SHOW
日本の竹尾の展示である。テーマは「SUBTLE・サトル」意味は、悟るかと思ったが違った。
「微妙な、かすかな、繊細な、ほのかな、鋭い、敏感な、鋭敏な」がテーマです。
とにかく、紙に色々な繊細な加工を、して新しい価値観を与える展示です。ここにも、職人さんの伝統的な技術とイノベーション的な新しい加工技術を見せる展示で有った。
細いリングを沢山作る展示4面色が違うことで、面白い表情を見せる。凄い技術力だ。
紙を組んでく、作品。とにかく大変な仕事量を見せることに依る作品。これで良いのか?
シチズンの時をテーマにした展示
建築家・田根剛氏(DGT.)の2014年の展示に続き、ほぼ同じ内容。
確かに綺麗だが、「何度もやってるじゃん!」という変わりばえしない展示であった。これも作る人が大変な展示。「ご苦労さまです」
moooi
楽しみにしていた、マルセル・ワンダーズ率いる「MOOOI」の展示。今年も会場は毎年同じな場所で行われているが、新作沢山で素晴らしい展示だった。
「ダサかっこ良い、時代を斜めから見るような雰囲気」なブランドイメージは、いつもカッコ良いと個人的には思ってる。
昨年から、発表したデジタルプリントのカーペットも更に発色が良くなった印象を受けた。
この照明器具にも驚いた。ペンダントとフロアースタンドタイプがあるが、究極の軽さ感を実現している。LEDの光の当たり具合が驚くほど美しい。どのように形成しているのかは、不明だが、非常に完成度の高い製品だった。
入口には、マルセル・ワンダーズの作品集の金箔のエディションが展示とともに、職人たちがどのように作ってるかを映像にて表現していた。今の時代だからこそ映像として見せていたのだろう!
The Nature of Motion-NIKE
私的には、今年のベストの展示だった。時間の関係で長く見れなかったのが残念だったが!
Nikeはイノベーションについて「常にリスクテイクと型破りな創造性を必要とする」と説明している。
「実験を行いながら、また大いなる夢を追い、違った考え方を持つようにインスパイアされるなかで『魔法』が見つかる」
「『もし、そうなら…』とイマジネーションを広げるところから、驚きを再発見できる」
NIKEの展示も色々なことを考えさせられた展示で素晴らしかった。
どのように作るのか?全く解らない。布が、靴になる瞬間を切り取った展示。
クラフト的で有り、芸術的にさえ見れる。
スニーカーの布「フライニット」で作った、作品が良かった。
一枚の布が、数脚の椅子を包み込むデザイン。
色々な大きさの繊維を編みこんでいる。どのように制作したのか?手作りなのか?機械による制作なのか?解らない、作品。素晴らしい。
格差社会における、2極化したデザインの価値観!
今年のNENDOの展示は、インテリアとしての目に見えない格差社会の象徴的な展示であった。
展示作品自体は、漫画をモチーフに新潟の金物職人さんが、スゴイ完成度で作った50脚それぞれが違うエディション作品の展示だが、そのスポンサーが面白かった!
スポンサーは、ニューヨークの「フレッドマンベンダギャラリー・Friedmanbenda」
ロン・アラッドなど、初めてインテリアデザイナーの作品をアートとして扱って販売したギャラリーとして有名である。ガゴシアンのマークニューソンの作品販売以降、一部の超有名インテリアデザイナーはアート作家と同等に扱われるようになってきたのである。
今回のスポンサーも、アートビジネスとして、この展示を行っている。NENDOの人気は、こんな形で扱われたのである。アート作品と同等に扱われる展示。まさに、NENDOの人気が、ビジネスとアートの世界にインテリアデザインを引っ張りこんだ作品展示であった。
「機能としての家具」「投資として、作品としての家具」
全く別の目的で2極化した家具の世界。そんな、部分を見せた展示であった。
展示自体は、個人的にはつまらなかった。
「新しいデザインとは、イノベーションと伝統の狭間に生まれる。」
クラフト的価値観と、ケミカルな素材の対比を美しく表現している。
機械の上下運動と紐というクラフト素材を使って、現象を写しだした、レクサスのインスタレーション。
2016年はコンピューターが初めて、囲碁のプロ棋士に勝ったイノベーションが起こった年である。ディープラーニング「人口知能技術」によるイノベーションだ。
対戦するコンピューターの指し方を見ながら対戦者は、このコンピューターは「勘が鋭い」という感じを何度も受けたという。コンピューターには「勘」など実際には有るはずはないのに!
だが究極な対戦になればなるほど、コンピューターの思考に人間は「勘を感じる」ようだ。
一人の表現者として、私も常に新しい表現をしていきたい。